PENの備忘録

主にアドラー心理学。

コモンズの悲劇

「コモンズ(共有地)の悲劇」という話がある。
これは、アメリカの生物学者であるギャレット・ハーディンが1968年に発表した論文なのだが、概要はこんな風である。
1)ある羊飼いの集団が共同の牧草地を所有している。
2)その集団に競合的な羊飼い達しか居なければ、彼らは利己心に従って自由気ままに群れの羊を増やし続けるので、共有地は荒れ果てて皆の生業が持続できなくなってしまう。
あるいは、その競争の中で生き残った羊飼いの一人が全ての牧草地を独占するので、他の者が生業を持続できなくなってしまう。
これがコモンズの悲劇だ。
3)そこで、別の協力的な羊飼い達は、飼育できる羊の数を話し合って共有地を保護することで、生業を持続可能にしようとする。
こうして、問題は解決に近づくわけだ。
この原則の応用範囲は幅広い。
大きな観点では地球環境問題などがそれにあたるだろう。たとえば統計によると、太平洋や大西洋のマグロ、タラ、ヒラメなどが、人類の漁業によって過去50年で約90%減少している。食物連鎖ピラミッドのどこかが欠ければ、天敵が消えた別のどこかが果てしなく増殖し、それによって別のどこかが絶滅すれば、生態系の循環が壊れていく。これは「利己的な羊飼いによるコモンズの悲劇」の一つだ。
もっと身近な例で言えば、公共施設の利用があげられるかも知れない。たとえば、ある図書館が仕入れた村上春樹の新作があるとしよう。その一冊を借りた愛読者の一人が、ずっと本を返し忘れたフリをして保有する。すると他の人の待ち時間がどんどん延びて全体が不幸になっていく、まあそういったことだ。
ここには「競合」「協力」の二項対立がある。
つまり、ここでの競合とは、利己的な個人がひたすら自己利益のみを追求することで周辺生態系を滅ぼしてしまうような姿勢のことだろう。
これに対して、協力とは「資源」「共同体の生活」といった環境を話し合いによって保護し、持続させていこうとする姿勢を指している。
アドラー心理学を本気で学ぶと、この「協力」的な心構えを自分の考え方の中に浸透させることができる。
本当にそんなことが可能なの?と思われるかも知れないが、それを可能にしてしまうのが、凄みなのだ。