PENの備忘録

主にアドラー心理学。

目的論(1)目的論の概要

「公理」とは、ある理論を語る上での出発点であり、真だと仮定される、最も基本的な前提のことだ。
アドラー心理学では、「五つの基本前提」という諸理論が、この公理の部分となる。
まずは、そのうち基本中の基本、「目的論」にあたってみよう。
基本と書いたけれど、これは理論全体において奥が深いポイントだし、それゆえに誤解が多いように思う。
ためしにインターネットでアドラー心理学を紹介するウェブページに飛んで、目的論の解説を見てみる。
いわく、アドラー心理学の目的論とは<人間の全ての感情や行動はある目的を達成するために生み出される>という考え方だとされており、
その但し書きには、フロイトらによって提唱された原因論<人間の感情や行動は過去の原因から生み出される>という考えに対峙するものだ、と書かれている。
アドラー心理学を学んでいくと分かるのだけど、この理解はやや一面的だ。
というのも、上記の
>フロイトらによって提唱された原因論<人間の感情や行動は過去の原因から生み出される>
という考え方は、アドラー心理学にも存在しているからだ(ライフスタイルと呼ばれる幼少の経験に即した人格理論がある)。
アドラー心理学はカウンセリングにおいて確かに人間行動の目的を重視するのだけれど、ここでの目的とは「過去と対峙する未来」というよりは、「受動的態度と対峙する主体的態度」だと言う方が、実態に近いと思う。
たとえば、「実はあなたの症状は過去の事件から生み出されているのです」という言い方は、アドラー心理学でも可能と言えば可能なのだが、
ただし、「過去の事件からその症状が機械的に生み出された」という風には考えない。
じゃあ何からどのように生み出されるのかと聞かれると、「過去の事件の影響があるかもしれないし、または肉体の生理的反応が大きいかもしれないし、あるいは現在の人間関係による影響なんかもあるかもしれませんね」と答えるだろう。
しかし、「いずれにせよ、それは機械的反応ではなく、つまり何か外的なものから生み出されているのではなく、何らかの目的を達成するために本人が生み出している行動の一つです」と続けるだろう。
ここで先ほどの「過去と対峙する未来というよりは受動的態度と対峙する主体的態度に近い」と言ったことに繋がる。フロイト派との違いはこの辺りのニュアンスになるかもしれない。
じゃあ人間行動の目的にはどんなパターンがあるのかと言うと、実はこれが楽しくも、とても大切な基礎議論だ。順に考えていこうと思う。