PENの備忘録

主にアドラー心理学。

目的論(2)四原因説

目的論が判ると、アドラー心理学における人間理解の根幹部分が頭に入る、と個人的にはそう思っている。
まあ、とはいっても、実はこの考え方はこのアドラー心理学の専売特許というわけではないので、まずは、その歴史から紐解いていくことにしよう。
目的論の起源は哲学の古い系譜の中にあって、それを確立したのはギリシャのアリストテレスだと言われる。
彼の考えはこんな風だった。
 

<あらゆる自然物は「材料」が「原因」を経由して「概念」化されたものであり、それは「目的」に従っている>

 

これだけだと抽象的すぎるかもしれないので、たとえ話として「ノコギリ」をイメージしよう。
その工具としての成り立ちを、上記「材料/原因/概念/目的」の要素に符合させて考えると、このようになる。
 
1)ノコギリは刃と柄からなる(材料)。
2)人間は素手で木を剪定できない(原因)。
3)ゆえにノコギリは人が手で持てる剪定用具として形成される(概念)。
4)つまりノコギリは木を剪定したいという人の望みによって生まれたのだ(目的)。
 
こうして見れば、「材料/原因/概念」を「目的」が主導する立場となっているのが分かるだろう。
つまり、木を剪定したいという目的があるからこそ、その状況に応じて刃を使う必要が生まれ、そこで用意された材料が、ノコギリとして成形される。
 
アリストテレスは、これら要因を目的に従えて組み合わせていくこの解析方法論を、四原因説(しげんいんせつ)という名で呼んだ。
私は、これこそ人間行動を理解するのに適した理論だと思う。
なぜなら、人がある行動をとる背景には、いつも目的に即して複数の要因が考えられるからだ。
たとえば同じ泣くという行為でも、人間にはあくびによって涙することがあるだろうし、個人の性格ゆえに泣くこともあれば、打算で噓泣きすることだってあると思う。
そして究極的な言い方をすれば、それら要因の共通目的として「人間が生命活動を継続するためにそうしている」という事情が見つけられる。
こうして人間行動の背景、そのパターンを明らかにして「その人の内部で目的論的に何が起こっているのか」が、直感的に洞察できるようになれば、人間関係の中で、何が起こっているのか、どうすれば上手くいくのかが判明する。
アドラー心理学が優れていると私が思うのは、その洞察が「現実における正確な地図」となるからであり、その地図があれば未来が予測できるし、今後の道行きを適切に検討できるようになるからだ。
 
次項からは、「材料/原因/概念/目的」を考察することで、理論の細部に分け入っていく。